雇用者側が留意する点をおさえていると、想像以上の有能な特定技能外国人を採用することができます。
今回は、特定技能外国人に求める能力やスキル例をもとに雇用者側が留意すべきポイントを解説します。
主な産業分野を「サービス・接客業系(介護・外食・宿泊)」「製造・農漁業・ビルクリーニング・造船(舶用工業)」「自動車整備、航空、建設」と大きく3つに分け、それぞれのポイントを解説します。
目次
サービス・接客業系の分野
サービスや接客業に関連する分野は、日本人であると、どうしても“おもてなし”は日本人特有の文化であり、外国人の雇用は難しいと判断してしまいがちです。
しかしながら実際に特定技能外国人を採用した雇用者にお聞きすると非常に満足されている声もあります。
参考:雇用者のお声と特定技能外国人へのインタビューはこちら
https://kbs-talentasia.com/news/column01/interview001/
介護・外食・宿泊分野に求められるスキル
特定技能外国人の採用において、サービス・接客業系で主に求められるスキルは以下にの通りです。
- N1、N2などの高い日本語レベル
※詳しくはこちら 日本語能力試験Webサイト(https://www.jlpt.jp/about/levelsummary.html)
- 実際の日本語会話、読み書き能力の高さ
- 明るさ、笑顔
- 入社前の専門的な業務内容の学習経験
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対人のサービス業になるので、会話はもとより読み書きの日本語レベルが高いことは重要です。さらに、技能や知識をつけ開発途上国の発展の寄与を目的とする技能実習とは違い、特定技能は労働力を期待するため、お客様をもてなす気持ちとスキルを持っているかも重要です。
雇用者側が留意すべき点
- 業務に必要な人柄・性格で一番重要なことは何か
- 入社後に教育・育成が難しいのはどんな能力・スキルか
- これまでの日本人社員の採用を振り返ってみて、雇用者側の要望を完璧に満たしている人ばかりだったか
- これまでの採用は、選考時に感じた所感とギャップがない採用ができていたか
- 外国人の採用に不慣れだという不安や警戒心から、見る目が厳しくなりすぎていないか
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お客様や利用者様へのサービスの質を重視するのであれば、一番必要な人材はどういう人なのかを考えてみることです。
そして、入社前にすでに備えていてほしい能力や技術と、入社後の教育・育成でカバーできる能力や技術とを分けて考えます。
特に介護は利用者様との会話と日本人職員との会話、どちらがより重要なのかを考え直してみるとよいでしょう。
入社時からすべてがそろっている人材を見つけるのは難しいです。
採用時の条件の優先順位を見直し、自社にとって本当に必要不可欠な条件に絞って採用をしてみると、将来的に職場になくてはならない人材に成長していってくれる人と巡り合える可能性が高くなります。
製造・農漁業・ビルクリーニング・造船(舶用工業)
製造・農漁業・ビルクリーニング・造船(舶用工業)の分野は、経験や能力とは別に非常に重要となるのが体力面と健康面です。力強さが必要な業務、標準以上の視力が必要な業務、とても体力が必要とされる業務など、業務によって必要となされる要素は異なります。
そして、これらの要素は努力や経験では解決できない要素であることも多いです。採用時にすでに一定レベル以上の技術があるのかという点ももちろん大切ですが、採用後に成長が見込める要素なのかどうかを見極め、採用する際の条件の取捨選択をするのがポイントです。
参考:雇用者のお声と特定技能外国人へのインタビューはこちら
https://kbs-talentasia.com/news/column01/interview005/
以下、主に求められる具体的なスキルです。
- 日本語会話の流ちょうさ
- 真面目にコツコツと取り組む姿勢
- 視力や体力など健康面での条件
- 器具や工具などの使用経験や技術
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また、ものづくりの分野であることを考えると、多少コミュニケーション能力に物足りなさを感じても繰り返しの作業を苦にしない素養や、コツコツ取り組む姿勢は重視したいです。もちろん採用時に技術的なスキルについても求める水準に達していれば嬉しいですが、入社後伸ばすこともできる要素なので最重要なポイントではありません。
2020年以降「半導体不足問題」が顕著になり、ものづくりに関わる人材不足も深刻な問題とされてきました。また、ものづくり分野では長らく製造の拠点を海外に頼ってきましたが、2022年以降に円安が進み海外拠点で製造をするメリットが出しにくくなったことから、日本国内を再び製造拠点とする企業も現れてきたこと、そして、海外企業が日本国内に製造拠点を持つことも進みはじめ、国内におけるものづくり人材は取り合いとなっています。
そのような社会状況の中で、人材を採用して社業の発展につなげるには理想だけではなく、自社が提示できる労働条件に見合った現実的な採用条件をしっかりと見極めていく必要があります。
参照:ものづくり人材の確保と育成 https://www.meti.go.jp/press/2021/05/20210528002/20210528002-7.pdf
この分野での雇用者側の留意すべき点は以下の通りです。
- 入社時にどのくらいの難度の業務を任せたいと考えているか
- これまで雇用してきた社員の特性を見て、任せたい業務に向いている人物像はどんな人か
- 入社後に育成できる能力と育成が難しい人間性や素質を分けて採用条件を絞り込めているか
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採用側が求める要素をすべて兼ね備えた人材の採用は、外国人に限らず難しいものです。特定技能外国人に任せたい業務に必要な要素と、あったらいいなという要素、なくてもあまり大きな問題ではない要素に分けて、採用の基準を考えることがポイントです。
自動車整備、航空、建設分野に求められるスキル
自動車整備、航空、建設の分野は、雇用者によっては特定の資格や免許を必要とする場合があります。資格等のほか、製造業と同じように体力面と技術面が求められ、さらに協調性や規律性も求められます。また、業務によっては危険が伴う可能性がある分野ですので、慎重さ・正確さなどの人間性も非常に重要なポイントです。
採用選考時に面接だけではなく、言語に関係なく受検者の能力・性格・行動面の特徴が把握できる適性検査などを活用して、一人ひとりの個性や仕事ぶりを選考材料とすることもお勧めです。
参考:内田クレペリン検査 https://www.kosaidovn.com/inspection-test/
以下、自動車整備、航空、建設分野で求められる主なスキルです。
- 業務に関する日本の資格・免許
- 団体行動における協調性や規律が守れるか
- 日本語会話の流ちょうさ
- 視力や体力など健康面での条件
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多少の日本語のつたなさがあっても十分に仕事に従事できる分野です。流ちょうな日本語能力よりも資格や免許を取得している前提での技術面のスキルが重視されます。
採用時の日本語能力があまり高くない場合、入社後にどのぐらい成長してくれるのか?1年後にちゃんとコミュニケーションができるようになっているのか?不安に思うと思います。そんなときに、日本語面における“のびしろ”を測る1つのヒントとして、多民族国家、多言語社会の出身かどうかを判断材料の一つとしてみるのもいいかもしれません。
日本では公用語は「日本語」ひとつだけです。日本社会で使われる言語も「日本語」だけで、アメリカのようにある地域では「スペイン語」の方が使われていたり、インドネシアのように学校や会社で使う言語と、家族との会話で使う言語が違うということはないように思います。
そのような理由もあってか、日本人は外国語の習得に苦労するなんて言う人もいますよね。一方、東南アジアや南アジアの国を見てみると、国が定めた公用語が1つではない国も少なくありません。また、国内に多くの民族が存在するため社会的な使用言語と、家族や親しい友人など個人的な関係性で使用する言語が異なるという人が多い国も珍しくないのです。そのような国や社会で育った人の多くは、自然と国が定めた公用語とそれ以外の言語の複数言語を話せ、理解できるようになるのです。
話せる言語を1から2にするのは、ハードルが高いと言われていますが、2から3、3から4と複数からその数を増やすのは1から2に比べるとハードルが低いようです。
ですので、インドネシアやミャンマー、フィリピンなど、採用時に複数言語話せる人材を選ぶというのも“のびしろ”に期待するという点では、効果があるのかもしれません。
雇用者側が留意すべき点は以下の通りです。
- 日本での自動車運転免許や業務に関わる資格などを持っていないと、本当に業務ができないのか
- 業務で高い日本語会話能力を必要とするのはどのような場面か
- 業務において重要とされる項目(会話能力、人間性、知識、資格等)の優先順位は決まっているか
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絶対にないと業務ができない資格・免許なのか、入社後に段階を経て取得しても問題がない資格・免許なのか、もう一度整理して考え直します。
例えば、現在多くの特定技能外国人の候補者の出身は、まだまだバイクでの移動が主流な東南アジアや南アジアです。自動車の運転免許を彼らが母国で取得することは非常にハードルが高いという事情があります。
「自動車の運転免許」を採用時の必須要件にしてしまうと、応募できる求職者の幅が狭くなってしまいます。すると、求職者の人間性、業務への適性や日本社会への順応性、働く環境との相性などによる選考がおろそかになってしまうことがあります。
採用要件の優先順位付けや、取捨選択を見直してみると、人材を選ぶ上での選択肢を広げられる可能性がでてきます。
テクニカルスキルとヒューマンスキルのバランス
主な分野でそれぞれ求められるスキルと留意点を解説しましたが、その他の分野でも同様で「テクニカルスキル」と「ヒューマンスキル」のバランスが重要です。そのバランスが産業分野別に求めるスキルの違いともいえます。
簡単に説明すると、テクニカルスキルとは仕事を進めるうえで必要な知識や技術などを言います。一方ヒューマンスキルは他人と良好な関係を築くための能力を言います。
接客に近い分野はヒューマンスキル、ものづくりに近い分野はテクニカルスキルをより重視することになります。0か100かの話ではなく相対的にどちらを重視するかです。
また本人のやる気次第で伸ばせるものなのか、先天的な素養で難しいのかも見極められるかがポイントです。
スキルに関しては国や人種、宗教などの違いで判断するのは危険です。偏った目で見てしまうと、良い人材を採用することを妨げる事態を招きます。
日本においては労働力の充当という点で外国人人材の採用が注目されていますが、ダイバーシティの観点で思い込みや偏見がないフラットな視点で採用してみると本当に必要な人材が国籍や人種に関わらず見つかる可能性が高まります。
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寺岡 佑季子(Teraoka Yukiko)
広済堂ホールディングスグループ
株式会社タレントアジア Evangelist
2004年から2011年までタイ、マレーシア、ベトナムで日本語教育及び現地日本語教師養成に従事。
2019年から広済堂グループにて外国人人材紹介、特定技能外国人雇用支援サービス「タレントアジアサービス」のローンチ、特定技能外国人人材管理システム「TalentAsiaシステム」の開発・リリースに携わる。
日本語教育・外国人支援の観点から、特定技能制度の普及に尽力。