外国人雇用について語られるとき、よく技能実習と特定技能が比較されますが、そもそも両者は目的が異なります。技能実習は、外国人が本国に習得した技術を持ち帰ることが主目的の制度です。対して特定技能は外国人の方に日本の人手不足を補ってもらうための制度です。
特定技能外国人を雇用する際に確認しておきたい各業務内容のポイントと、技能実習との主な違いを分野ごとに説明します。
目次
特定技能 外食業人材を雇用する際のポイントと技能実習との比較
- 接待を伴う飲食店は対象外
- 深夜営業するカラオケボックスなどは対象外
- カフェやレストランなどに併設されているバーで、お客様に対面でお酒を注ぐなどの行為をする場合も対象外
- 店舗でお弁当やお総菜を調理して販売するお弁当・惣菜店は外食業に含まれる
- スーパーマーケット等の店舗でのお弁当・総菜調理も外食業となるが、店舗での商品陳列やレジ打ちなどの業務への従事は業務区分に含まれないため注意が必要。
技能実習
なし(技能実習制度に外食業はありません。)
特定技能1号
技能実習には外食業がないため、就労するための在留資格の中で技能(10 年以上の経験を持ち、熟練した技が必要となる日本料理以外のシェフ等)を除くと、初めて外食業の店舗従業員として採用できる在留資格である。
実際に特定技能1号の外食業で日本で働く外国人の方のインタビューもご覧ください。
【東京/外食】日本で働く外国人インタビュー[ベトナム出身/特定技能1号]
【福井/外食】日本で働く外国人インタビュー[スリランカ出身/特定技能1号]
スーパーマーケットのお惣菜などの製造・調理は特定技能1号人材が活躍できる?
店頭でお弁当を調理し販売するような形態の飲食店の場合、特定技能1号の外食業に該当するケースが多いため、スーパーマーケットの惣菜などの製造・調理も同じく外食業で1号特定技能外国人に活躍してもらえるかもしれないと期待してしまいますが、スーパーマーケットがバックヤードで惣菜などの飲食料品を製造・加工をしている場合は、バックヤードはスーパー(小売業)の機能の1つであるため、特定技能1号の「外食業」「飲食料品製造業」ともに対象外となっています。
これは、特定技能人材の雇用が可能な分野である特定産業分野は、総務省が発表している日本標準産業分類によって定められていることにも起因するのですが、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、百貨店などは小売業に分類されています。このため、外食業とも飲食料品製造業とも別の分野だということになっているのです。
ただし、スーパーマーケットなどの店舗の中であっても、売り場とは別の区画に法人を別にして惣菜などの飲食料品を製造・加工を行う場合や、スーパーマーケットとして店舗でも販売をしているが、ほかのお店などにも卸していて、バックヤードでの製造・加工などの売り上げが店舗での小売りの売り上げよりも過半を超えている場合は「飲食料品製造業」とみなすことも可能なようです。
2023年4月現在、技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議が政府主導で行われており、2024年以降の両制度のあり方や分野、業務内容はまだわかりませんが、特に特定技能制度は「人手不足解消」を目的として創設された制度ですので、雇用主が活用しやすく、事業維持・拡大・継承していけるための使い勝手の良い制度改革に期待したいです。
特定技能 宿泊業人材を雇用する際のポイントと技能実習との比較
- 求められる日本語レベルが高く、特定技能・宿泊業技能測定試験の合格率は、国内/国外ともに他の分野に比べて低い。
- 技能測定試験合格者は日本語能力試験N3 〜 N2 レベル以上(参考:外国人の日本語能力レベルをどう判断する?) で日本国内外のホテルマネジメントなど宿泊関連を専攻できる専門学校や短大、大学の卒業者に限られていることが予想される。2023年4 月現在、特定技能宿泊の要件を満たした求職者を集めることは他の分野と比較して難しいと思われる。
- 就労開始時から宿泊施設での業務全般に携わることができるが、業務の大半もしくは専門的にベッドメイキング業務に従事する場合は、特定産業分野「ビルクリーニング」が該当分野となる。
技能実習
1 号と2 号以降で従事できる業務が分かれる。
< 1 号の主な実習内容>
利用客の送迎作業/滞在中の接客作業/料飲提供作業/衛生管理
< 2 号の主な実習内容>
利用客の送迎作業/チェックイン・チェックアウト作業/滞在中の接客作業/料飲提供作業/衛生管理
特定技能1号
一般の求人同様に各宿泊業の経営・運営団体ごとに応募条件を設定できるため、接客ができるレベルの日本語や専門知識の条件設定が可能。就労開始時から接客にも従事する能力がある人材を採用できる可能性もある。
技能実習生の場合、入国時の最低日本語レベルの設定がないので、2 号の実習時に接客業務ができるレベルの日本語会話が可能かどうかは不明。
特定技能の場合、多くのホテル経営・運営会社は独自の応募条件として、日本語レベル「N2 以上に合格」などを設定し、即戦力人材獲得を図っている傾向にある。
宿泊業界で活躍する外国人の在留資格「技・人・国」「技能実習1~3号」「特定技能1号」
日本政府としても今後ますますの訪日外国人旅行者の増加を目標とする中、宿泊業ではこれまでより更にさまざまな言語ができ、あらゆる国からの旅行者をおもてなしできる人材が必要とされることでしょう。
これまで宿泊業では、たとえば母国の大学や日本の大学・専門学校で観光/ホテルマネジメント/日本語と外国語の翻訳・通訳を専攻し卒業した外国人が技術・人文知識・国際業務の在留資格を得て、外国人観光客が多く利用する日本のホテルで外国語を用いたフロント業務、外国人観光客担当としてのホテル内の施設案内業務等に従事するというケースが多くありました。
そんな中、技術・人文知識・国際業務の人材の主たる業務が宿泊客の荷物の運搬および客室の清掃業務だったり、駐車誘導、レストランにおける料理の配膳・片付けなどである場合は不許可となってきました。しかし、雇用する側のニーズとしてはマルチタスクをこなしてほしかったり、業務スキルの上達に応じて業務内容の難易度を上げていきたかったり、はたまた人手不足でとにかく働き手が確保したかったりと、技術・人文知識・国際業務だけでは宿泊事業者の人材確保ニーズを満たすことはできませんでした。
そこで、2019年4月から特定技能1号に宿泊業が加わり、2020年2月には技能実習制度で、通算3年の在留が可能となる「技能実習2号」の対象職種に宿泊業(接客・衛生管理作業)が追加されました。
では、特定技能1号と技能実習1~2号ではどのような業務を任せられるのでしょうか。
まず、特定技能1号における「宿泊業」では、宿泊施設におけるフロント、企画・広報、接客及びレストランサービス等の宿泊サービスの提供に係る業務。あわせて、これらの業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務(例:館内販売、館内備品の点検等)に付随的に従事することが可能とされています。つまり、ホテルなどの宿泊施設で発生しうるかなり広範囲の業務を任せることができます。
しかし、宿泊施設で発生しうる業務の中で特定技能1号の業務内容に含まれていない業務があります。それは「客室清掃・ベッドメイキング」です。主たる業務として「客室清掃・ベッドメイキング」を任せたい場合は、特定技能1号ではビルクリーニング業での雇用となります。
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一方で技能実習における「宿泊業」では、利用客の送迎作業、会場の準備・整備作業、滞在中の接客作業、料飲提供作業、利用客の安全確保と衛生管理、安全衛生業務について上司による監督の下、段階的に任せられるとされています。自立して行えるかの違いはありますが、業務内容という点では特定技能1号とそこまで大きな違いはないようです。
ここでもやはり「客室清掃・ベッドメイキング」は含まれていないことから、技能実習においても「客室清掃・ベッドメイキング」を任せたい場合は、ビルクリーニング(ビルクリーニング作業)で受け入れる必要があるということになります。
2023年4月時点で、技能実習制度に関しては今後の存続が難しいという意見もあり、宿泊業における外国人人材の活躍に今後も技能実習制度が含まれるかはわかりません。
これまでの日本人従業員の雇用のように幅広い業務範囲で任せるマルチタスクでは、それぞれの在留資格で定められた業務範囲を超えてしまうことが、宿泊業では特に発生しやすいことが予想できます。外国人人材の活躍が今後も期待される宿泊業であるからこそ、分業という方向に進んでいく必要があるのかもしれません。